【連載】(タイトル未定)#2-1
※こちらは、超絶遅筆な管理人が、せめてイベントに参加する毎には更新しようという、
雨垂れ石を穿つ精神で投稿する長編(になる予定)の連載ページです。
状況により、過去投稿分も随時加筆修正予定。
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「魔物だー!」
「誰が魔物だぁ?!」
「フ、フレイ、落ち着いて」
歓迎されない一声に、フレイの不機嫌さが跳ね上がる。そのまま火矢でも降らせそうな気配に、ルークは慌ててフレイの腕を掴んだ。
見上げてくるルークの、本気で止めようとしている必死さに、逆に冷静になる。怒りを納め肩の力を抜くと、掴まれた手の力も少し緩んだ。
「心配するな、本気じゃねぇよ」
「そう、は見えなかったけど」
苦笑しながら、ルークは手を離し、上陸の準備を始めた。そのあとに、フレイも続く。
暮らしていた小屋を焼かれ、ふたりは浜の端に打ち上げられていた『古代文明の遺産』である『船』に乗り込んだ。
フレイは初めて見た時に、船として動くかはわからないと断じたが、『魔力』に反応する機関部分は生きていた。それ以外の、船体としての部分は大がかりな修繕がなされており、朽ちかけて廃船のようだったのが嘘のように、美しい外観を取り戻していた。
町の人間たちの言動は許し難い。が、加護持ちでない徒人からすれば、当然の反応だったとも言える。それは、フレイも長年身に染みて感じてきた。
もう、過ぎたことだ。これ以上とやかく言っても仕方ない。フレイやルークに向けた数々の仕打ちは、この『船』に対する丁寧な仕事で償ってもらったと思うことにする。
フレイが操縦盤と思しき金属の板に手をかざし、魔力を放つと、『船』は静かに動き出した。しばらくは急に加速したり、突然向きを変えたりしていたのだが、やがて操縦のコツを掴んだのか、『船』は滑らかに海を走り出した。
海と相性が悪いと言っていた割に、随分と簡単そうに操縦しているなとルークは思ったが、どうやらフレイの機嫌はすこぶる悪いようだった。一度、操縦室を覗いたら、見たことのないような深い皺を眉間に刻み、半眼で睨み返された。
黙ったまま、追い払うように片手を振られ、それ以来ルークは、操縦中のフレイには近寄っていない。
八つ当たりしない配慮なのだと、わかっていた。『船』を動かしてほしいと言った自分の我が侭で、彼に負担を強いていることが少し、申し訳ない。フレイは、そんなことが負担だとは口が裂けても言わないだろうが。
そうして、左手に陸地が見える距離を保って2日ほど。フレイが言うには、一番近い町がある筈だった。
「陸続きの町だが、間に険しい山があるからな。交流はほとんどない。俺たちや『船』のことも、噂になったりはしてねぇだろう」
そう判断して、上陸しても問題ないと思っていたのだが、甘かった。
明らかに漁船ではないので驚かせてしまうかもしれないと、町からはだいぶ離れた海岸に着いたのだが、たまたま通りかかり、そのまま逃げていったらしい男の、あの一言だ。
「見慣れないものはすべて魔物、か。相変わらずだな」
おそらく、フレイたちではなく、巨大な船を指しての言だったのだろうが、それでもあまりいい気はしない。
吐き捨てるように呟いたフレイの声音に、言葉とは別の感情が滲んでいるように聞こえたのは、ルークの気のせいだったのだろうか。
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