【試し読み】銀の河を漂い彷徨う3(第二章全文)
2.それはただの作業に非ず
名付けには割とこだわる方である。タイトル然り、登場人物然り。
無論、直接的、或いは仄めかす程度に、意味もある。作中でかな表記であっても、漢字に直すと実は…なんてこともある。
しかしまぁ、そんなことは創作していれば別に珍しいことでもない。私の場合、呼び名が必要な作品では特に、名前を付けるまで登場人物がまったくと言っていいほど動いてくれないので、創作を始める上での最優先重要事項というだけの話だ。
かと言って直感で名付けるのも苦手なので片っ端から辞書をめくり、これだと思う名に出会うまで、本編はほぼ手つかずになる(遅筆の原因はこんなところにも…)。
既出の名の意味は――勿論言うとあらゆるネタバレになるので伏せる。
ここで語りたいのは、「意味」ではなく「音」の方だ。
公開している拙著は片手で数えるほどしかないので、呼び名のある登場人物もそれほど多くないのだが。
それでもある程度の傾向というか、好みの響きというのがある。以下、登場人物名(世に出ていない者も含む)の音の組み合わせと、立ち位置・性格を大雑把に分析してみた。
・K音+R音
最強の組み合わせ。各音単体でも主人公クラスにはほぼ必須。
版権ものでもだいたい好きなキャラはこの音が入る名が多い。金属やガラス・鉱物系の硬質なイメージ。
・T音
これが入るとK+Rよりは若干柔らかい印象。
その分、肝心なところで詰めが甘い性格になりやすい。
・M音
K(またはT)+RでもMが入ると、だいぶ草食系寄りになる感じ。
良くも悪くも優柔不断。
・H音+M音
立ち位置はサブ以上、メイン未満。主人公(またはストーリー)の補佐系。
・S音
音としては好きなのだが、使いどころに微妙に悩む。自由奔放というか、我が強いというか、こちらが手綱を握りきれないキャラになりやすい。
・母音・長音
どこに入るかで印象が変わる。ほどよいアクセントになるので多用しがち。
ざっとこんなところだろうか。
「命名」とはよく言ったもので、それは文字通り、命を吹き込む行為である。たとえ仮に名を付けたとしても、それが「仮」である限り、彼らは決してこちらの思うようには動いてくれない。
そして、人物名も大概悩むが、物語のタイトルはさらに長時間悩む。長すぎず短すぎず、ある程度は内容を想起させつつも結末のネタバレはしない――とか考えると、これかなり難易度高いんじゃないかといつも思う。稀にタイトル先行型で浮かぶ物語もあるが。
まぁ、悩んだ分だけ愛着も湧くし、名前やタイトルがぴたりとはまれば我が子感も強くなるので、それを面倒だとは思わない。時間がなくて焦ることはあるが、悩むことを煩わしいとまでは思わない。
自分は名付けに時間がかかる方だ、と自覚していれば問題なかろう。
(いや、未だにタイトル未定で連載してる物語があるのは、いい加減どうにかした方がいいけどね)
※なお、分析の参考にした著書『怪獣の名はなぜガギグゲゴなのか(黒川伊保子・著/新潮新書)』に倣い、各子音のことを「○行」ではなく「○音」とした。
音が脳に伝える潜在的なイメージという、なかなかおもしろい内容だったので、20年近く前の本だが未だに手元にある。各種ネーミングにも応用できるので、興味のある方はぜひ。
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