【連載】(タイトル未定)#5
※こちらは、超絶遅筆な管理人が、せめてイベントに参加する毎には更新しようという、
若干他力本願な長編(になる予定の)連載ページです。
状況により、過去投稿分も随時加筆修正予定。
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フレイはそれ以上、操縦盤に触れることはしなかった。どういう仕組みになっているのかわからない以上、陸に上がっている状態で不用意に動かすべきではないと判断したのだ。
船体を一通り見て回り、フレイはそのまま町に報告に行くと言う。
「おまえのことも、一応知らせとかねぇと、後々面倒になるかもしれん。俺のとこにいるにしろ、町で厄介になるにしろ、挨拶はしとけ」
「はい」
そう返事はしたものの、ルークは町で暮らしている自分が想像できなかった。なんとなく浮かぶのは、フレイの小屋で生活する日々だ。
歩き出したフレイの後に、ルークもついて行く。いくらも歩かないうちに、周囲は木々の生い茂る森へと変貌した。燦々と日光が降り注いでいた浜辺と打って変わって、森の中は鬱蒼として薄暗い。それでも、人の通る道はある程度整備されているようだ。町へ続いているであろうその道を、二人は黙って歩いていった。
森を抜けて着いたのは、小さく穏やかな雰囲気の町だった。
その町の真ん中を歩いて行くフレイを、周囲の皆が遠巻きに見ているのがルークにもわかった。彼の来訪が珍しいのか、伴われている自分が注目されているのか。両方だろうな、と察する程度には、浴びせられる視線は好奇心に満ちて遠慮がない。フレイは特に気にした風でもないので、恐らく、いつもこうなのだろう。
町の奥に建つ、一際大きな家屋の前で、フレイはようやく足を止めた。扉を叩くと、中から白髪頭の男が出てきた。
「おぉフレイ、もう見てきてくれたのか」
「まぁ、な。危険なものなら放置する訳にもいかんだろ」
「入りなさい。詳しく聞こう」
促されて、二人は中に入る。一瞬、訝しげな目を向けられたが、ルークは気付かない振りをしてフレイの後に続いた。
部屋の真ん中で男は振り返り、二人も足を止める。
「船らしい、ということは聞いたのだが」
「あぁ。それもただの船じゃない。動力付きだ」
「なんと……『古代文明の遺産』か。動くのか?」
「機関部は生きてるようだが、船として動くかは何とも言えねぇな」
なにせ、あの老朽具合だ。魔物が潜んでいたことは、面倒だから黙っておく。
ふむ、と男は思案顔になる。彼が町の長だと、フレイに耳打ちされた。
「まぁ、その件は追々考えるとしよう。それで、彼は?」
そう言って寄越された視線に、決して好意的でないものが滲んでいるのをフレイも、当のルークも感じ取った。ルークは黙ったまま、ぺこりと頭を下げる。視線を遮るように、フレイが僅かに立ち位置を変えた。
「嵐の中、遭難してたのを拾った。名はルーク、それ以外の素性はわからん。取り敢えず俺んとこで預かる」
「あぁ、そうしてくれると助かる。必要なものがあれば言いなさい。こちらで用意しよう」
親切そうな口振りに、明らかな安堵の気配。得体の知れない者を、町で面倒を見るつもりはないのだろう。ここで厄介になるのは難しいと、フレイも最初からわかっていた。
長の家を出るなり、フレイが長い溜息を吐く。
「すまん、気ぃ悪くさせたな。小さな町だから、余所者にはちょいと厳しいんだ」
「いえ……素性がわからないのは本当だし」
何より、これでフレイの小屋で過ごすのは確定事項だ。ルークにとって、その方がずっと嬉しかった。思わず頬が緩む。と、突然頭を小突かれた。
「おまえ、変わってるな」
「え? どこがですか?」
「普通、俺みたいなのに拾われて、もうちょっと怖がったりしねぇ?」
お世辞にも「親切そうな良い人」らしい外見でないのは自覚している。浜辺でも荒事の一端を見せてしまったし、距離をおかれても不思議ではないのに、ルークはどうやら自分に懐いているらしい。
「フレイさんは、怖くないですよ」
「……真顔で言うな。あとな、さん付けやめろ」
決まり悪くなって頭を掻くフレイに、ルークはまたしても、少し困った顔で曖昧に笑った。
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