【連載】(タイトル未定)#6
※こちらは、超絶遅筆な管理人が、せめてイベントに参加する毎には更新しようという、
若干他力本願な長編(になる予定の)連載ページです。
状況により、過去投稿分も随時加筆修正予定。
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浜辺に倒れていたのを拾われてから数日、ルークはフレイの小屋で、様々なことを教わりながら暮らしていた。
薪割りのコツ、食べられる野草や木の実の見つけ方。森で動物を狩り、川で魚を獲り、それらを安全に捌く方法。火の熾こし方から真水の調達の仕方まで、およそ生きていくのに必要と思われる事柄を、片っ端から叩き込まれていった。
おそらく、いつひとりになっても困らないようにという配慮だろう。まさか一生、フレイの世話になるわけにもいかない。
火種の熾し方を教わっていた時、ふと思い至って、フレイ自身の魔力で火を熾し、燃やし続けることはできないのかと訊いてみた。すると、随分渋い顔で「できんことはないが、疲れるし面倒だ」と、素っ気なく返された。
どうやら、魔力は体力と同じで、使えば消耗するし、完全に枯渇すれば回復に時間がかかることもあるらしい。ただ便利な力、というわけではなく、フレイも余程緊急性がなければ、いたずらに力を使うことはないという。
「加護持ちであることが、必ずしも良いこととは限らない。俺は、自分で制御できる程度の力しか備えていないが、中には自分の意志とは関係なく発動してしまって、周囲に被害が及ぶような、過剰な力を持ってしまうやつもいるらしいからな」
まるで、その場を見たことがあるかのような生々しい物言いに、ルークは何も返せなかった。フレイも、心のどこかでは恐れているのだろう。いつ、自分がそうなってしまうかも知れないという、先の見えない闇に。
「気が向いたら、好きな時に出ていっていいからな」
そう言ってルークに生きる術を叩き込んでいるのは、その不安の反動のような気がした。
ある日、森で薬草と毒草の見分け方を教わっていたら、不意にフレイが立ち上がり、遠くを見るような目つきをした。不思議に思ってその視線の先を見ていると、人の気配が近づいてくるのがわかった。それも、一人や二人ではない。やがて大きな荷物を持った、大勢の足音と話し声が聞こえてきた。
先頭を歩いていた男が、フレイとルークに気付いた。他の者に先に行くよう指示し、自分は二人の元へ歩み寄ってくる。
「フレイ、ちょうどよかった。後でそっちへ寄ろうと思ってたんだ」
「何事だ、随分仰々しいな」
側を通り過ぎていく男たちの手には、斧や鋸、木材などが抱えられていた。
「浜辺の船を、修繕しようという話になってさ」
フレイの視線を追って、おおよそ予想はついたと判断したのだろう。男は軽い口調で言った。フレイも、予想通りの回答に、別段驚いた様子もない。
「動くかどうかはわからない、と言った筈だが」
「けど、おまえの力に反応したんだろう? いざという時、何かの役に立つかもしれないじゃないか」
で、と男は本題に入る。
「作業している間、近くにいてくれないかと思ってね」
「は? 俺が?」
「あぁ勿論、毎日いつも、というわけじゃない。気が向いたら様子を見にきてくれるとありがたい。動かしてみたい時や……何かあった時、助かる」
何かあった時。それは、初めて様子を見に行った時のように、何かが襲ってきたら、ということだろう。であれば、これは、常に側で見ていてくれと言っているようなものだ。
「……気が向いたら、な」
渋面で唸るフレイをよそに、男は何度も手を振りながら浜辺に向かう列に戻っていった。
その後ろ姿が見えなくなって、フレイが盛大な溜息を吐く。ルークは心配になって訊ねた。
「面倒?」
「……いや、あー、まぁ、様子見てやるくらい、いいんだけどよ」
歯切れの悪さに首を傾げていると、眉間に皺を寄せて、フレイは呟く。
「浜辺、苦手なんだよ」
「えぇ?!」
予想だにしない発言に、驚くほど素っ頓狂な声が出た。そんなルークの反応に、フレイの眉間には益々皺が寄る。
「浜辺だけじゃない、水周り全般ダメだ。調子が悪くなる。酷い時は体調も崩す。たぶん、魔力と反発してるんだろうな。川はまだマシだが、海はできれば近付きたくない」
ほんの少し様子を見に歩くくらいなら問題ないが、毎日浜辺で修繕作業のお守りなど、冗談ではない。
だが、「あの船」には魔物が潜んでいたのだ。ただでさえ、『古代文明の遺産』は魔力との因果が強い。何かあるかもしれない、という懸念は拭いきれない。何かあってからでは、さすがに寝覚めが悪くなる。
「……行くしかねぇなぁ」
「あ、あの、どうして」
「ん?」
なぜ、助けてくれたのだろう。近付きたくないという浜辺に倒れていた、自分を。
「……」
呼ばれた気がしたからだ、などと。
そんな夢物語のような理由を、彼に言うつもりはなかった。
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