【連載】(タイトル未定)#7
※こちらは、超絶遅筆な管理人が、せめてイベントに参加する毎には更新しようという、
若干他力本願な長編(になる予定の)連載ページです。
状況により、過去投稿分も随時加筆修正予定。
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翌日から、フレイとルークの日常に、ひとつの日課が加わった。
浜辺の端に打ち上げられた『船』と、それを修繕しようと町からやってくる人々の見守りである。
といっても、朝から晩まで側で張り付いて見ているわけではない。何か異変があれば駆けつけられる程度の距離で、ルークは相変わらずフレイから様々な事柄を教わっていた。
フレイが、浜辺が苦手だというのは本当らしかった。ほんの短い時間、あるいは短い距離を歩くだけで、すぐに森の方へ戻っていってしまう。それに気付いてから、ルークは自分が積極的に浜に出向くようにした。側で見ているのは、別にフレイでなくてもいいのだろう。作業者たちからも、特に何も言われなかった。
それは、珍しくフレイと二人で浜辺を歩いていた時だった。
風と天候の読み方を教わっていたが、ふと、どちらからともなく足を止める。互いに顔を見合わせた瞬間、例の『船』の方から、悲鳴のようなものが聞こえてきた。駆け出したフレイに、遅れてルークも走り出す。
いくらも行かないうちに、数人の男たちが逃げてくるのが見えた。ひとりがフレイに気付いて叫ぶ。
「フレイ! た、助けてくれ! 何かが……!」
「あぁわかってる、いいから離れとけ!」
怒鳴り返すフレイに、ルークは必死でついていく。調子が悪くなるなんて嘘ではないかと思うほど、その背はどんどん遠のいていく。
ルークがようやく追いついた時、砂浜の至る所に白煙が立ち上っていた。前に見たのと同じような、黒く焦げた塊がそこら中に転がっている。
フレイは、船の舳先にへばりついて震えている男と、今にも襲いかかろうとしていた魔物との間に割って入った。右腕を一閃させると、熱風に驚いたのか、魔物は僅かに後退る。その隙に、腰を抜かしている男を蹴りつけ、船から離れさせる。追いついてきたルークが、男を支えるようにして距離を取るのを視界の端に捉え、フレイは再び魔物と向き合った。
人の背丈ほどもあるそれを、正面に見据える。息が上がり、汗が顎を伝い落ちていくのは、全力疾走してきたから、だけではない。
本能的な、危機感。これは危険だと、身の内のなにかが叫んでいる。
小山のように盛り上がった『それ』の、元の姿は判然としない。輪郭はぶよぶよと朧に揺れ、目玉と思しきふたつの光が、フレイを凝視している。
互いに睨み合い、じりじりと間合いを測るように足を滑らせる。均衡を破ったのは、船から離れた筈の男の声だった。
「フレイ! ふ、船は傷つけないでくれよ!」
「はぁ?! ふざけんな、状況見て言え、そういうことはよ!」
一瞬目を逸らした、その隙を突かれた。魔物の背が盛り上がり、水の塊が槍のように降り注ぐ。咄嗟に築いた炎の壁では全てを防ぎきれなかった。鋭利なものが肩を掠め、足下の砂が抉られる。
「頼む! ようやく修繕の目処が立ちそうだったんだ!」
男の悲鳴に似た叫び声に、舌打ちしたくなった。『古代文明の遺産』が貴重なのはわかる。が、この状況でどうしろと言うのか。
この魔物が、『船』を狙っているのか、それとも『人』を襲おうとしているのか。前者なら、この場を動くわけにはいかない。後者なら、逆に船を背にしたままでは戦えない。
再び、魔物の背が盛り上がる。水が、意志を持っているように、フレイに狙いを定めているのが感じられた。
先日の、船に潜んでいた低級の魔物とは違う。海の力を宿し、操っている。
まずいな、と思ったのは一瞬だった。水が無数の刃となって放たれる。炎の刃を放ち、相殺させるが、間に合わなかった。打ち落としきれなかった水刃が腕を、胴を、足を切り裂いていく。
「くっ……」
「フレイ!」
叫んだ声は、少年のものだった。
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