【連載】(タイトル未定)#11
※こちらは、超絶遅筆な管理人が、せめてイベントに参加する毎には更新しようという、
雨垂れ石を穿つ精神で投稿する長編(になる予定の)連載ページです。
状況により、過去投稿分も随時加筆修正予定。
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流れていく、無数の景色。
浮かんでは、沈んでいく。体が――意識が?
集まって、渦巻いては、解けていく。消えていく。
『憶えているか?』
何を――誰を?
彷徨っていた意識が、眠っていた体に戻ってきたような感覚。目が覚めた、ということだと、しばらくしてようやく気付いた。
頭上の木組みの天井を、見慣れてきたと、ふと思う。そのままいつもの癖で、ぐるりと部屋の中を見回す。反対側の壁際のベッドは、相変わらず空だ。
そういえば、彼の眠っている姿を見たのは、怪我をしていたあの時だけだ。そのことに思い至って、ルークは急に、言いようのない不安に駆られた気がした。
行かないで。知らないうちに、消えてしまわないで。
「……フレイ」
返事はない。代わりに、小屋の外から、聞き慣れない音がしている。
そっと外を窺うと、ひゅっという風切り音と共に、銀の煌めきが視界に飛び込んできた。思わず手を翳す。
「おっと、すまん。驚かせたか」
耳に届いたフレイの声音は、少し息が上がっていた。目元に翳していた腕を下ろす。目の前に、槍を携えたフレイが立っていた。さっきのは、振るわれた穂先に反射した光だったのだろう。
「フレイ、どうしたの。急にそんなもの」
「あぁ、力がまだ安定しないからな。また近くに魔物が現れるかもしれんし、こんなものでもないよりマシだろう」
しばらく大人しくしているとは言ったものの、厄介事はこちらの都合などお構いなしにやってくる。充分に魔力の扱えない状態で、丸腰では危険すぎる。
昔から、幾度かこういう事態には遭っている。完全に回復するまで、長くても数日だろうと、これまでの経験から予測はついている。あくまでも不測の事態への備えだ。
だが、その手にした槍を見つめるルークの目に、今までにないものが浮かんでいる気がした。
「フレイ、ぼくも何か」
「やめとけ」
ルークが何を言おうとしたのか、頭で理解する前に制止の声が出た。咄嗟のことで、思わず強い口調になってしまったのを、取り繕うように言い直す。
「……やめておけ。厄介事や争い事ってのはな、それを行える術を持つ者に寄ってくるもんだ。俺みたいに、それで食ってるやつは構わねぇよ。けどおまえは、こっち側には来なくていい」
さすがに過保護だろうかと、自分で思わなくもない。だが、彼には来て欲しくなかった。こちらの領域には。
そちら側にいてほしい。そのために、自分が手を汚すことなど、いくらでも。
不意に湧いたその思考に、フレイは少なからず驚き、戸惑っていた。
――俺は、彼を、何者だと思って接しているのだろう。
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