【連載】(タイトル未定)#16

※こちらは、超絶遅筆な管理人が、せめてイベントに参加する毎には更新しようという、

雨垂れ石を穿つ精神で投稿する長編(になる予定の)連載ページです。

状況により、過去投稿分も随時加筆修正予定。

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「どう、して……?」

 ルークの呆然とした呟きに、フレイの舌打ちが重なる。

 小屋は炎に包まれ、熱風と黒煙を吐き出していた。

「……下がってろ」

「フレイ」

 見上げた瞳に映る、炎。彼の纏う空気が揺らぐ。

 フレイは右腕を炎に向け、小屋から引き剥がすように空を掴んで横に払った。瞬く間に小屋を包んでいた炎は小さくなり、崩れかけた屋根の端で燻っているだけになった。

「近くにいるんだろう。出てこい」

 森の方に向けて、フレイが静かな、しかし怒りの籠もった声を放つ。だが、反応はない。

「隠れても無駄だって言ってんだよ、そこら一帯焼き払うぞ!」

 脅しではないと言わんばかりに、フレイの右腕が炎を纏う。一歩踏み出すと、近くの茂みから男が3人、転がり出てきた。どれも見た覚えのある顔だ。

「待て! は、話を聞け!」

「先に問答無用で火を放ったのはてめぇらだろうが。今さら何を話すつもりだ」

 フレイの冷たい声に男たちは縮み上がる。だが、聞けと言った手前、引き返せないのだろう。固まって震えながら、それでも気丈にフレイを指す。

「何のもなにもない! あれだけ言ったのに、魔物の出現は増えるばかりだ。そこの小僧の元に魔物が集まってくるのは、隠しようのない事実。そいつが呼んでいるんだろう!」

「そんな力、こいつにはねぇよ。憶測で人を疑って火を放つのがてめぇらのやり方か?」

「責任は取ると言ったくせに! 手を打つどころか、元凶を側に置いて、何かよからぬことを企んでいる、そうだろう!」

 顔を真っ赤にして喚く男の話は、まるで筋が通っていない。フレイは冷めた目を向けたまま、声だけは静かに応じていた。

「現れた魔物は始末してやってるだろうが。何が不満だ」

「そうやって、恩を売っておいて、二人で何かやらかす気だろう。そんな武器まで与えて、小僧に魔物を呼ばせて、町を襲うつもりにでもしてるんだろう!」

 不意に、フレイの纏う空気が豹変した。 

「……ばかか、てめぇら。俺があんな小せぇ町ひとつ消すのに、素性の知れねぇガキの手が必要だと、本気で思ってんのか?」

 全身から立ち上る、陽炎のような影。それが彼の魔力の奔流だと気付いて、ルークは思わず後退った。

 そこにあるのは、凄まじい怒り。いつだったかに聞いた。フレイが昔そうだったという、強大な力に向けられる、恐れと偏見。それに対する烈しい苛立ちと――理解されない虚しさ。

 見ていたくせに、フレイが命懸けで魔物と闘ったことなど、誰も覚えていない。ルークの世話を親身に焼いてくれたことなど、彼らにとっては迷惑の火種でしかない。それが無性に腹立たしく――悲しかった。

「人の手なんざ借りるまでもねぇ。森ごと焼き尽くして証明してやろうか」

 フレイの口元に凄絶な笑みが浮かぶ。魔力の奔流に煽られ、背で踊る長い髪が、まるでその身に炎を纏っているようだ。右手に籠められている魔力が脅しではないことを察して、ルークは咄嗟にフレイの左腕に縋り付いた。

「邪魔だ、どけ」

「……だめ。だめだよ、フレイ」

 怖かった。町の連中の敵意も悪意も、根拠のない誤解も。フレイの、怒りと殺気も。

 それでも、止めなければならなかった。このままでは、いつか見た、あの恐ろしい夢のようなことになってしまう。それだけは嫌だった。フレイに、その力を使わせるのだけは、どうしても。

「疑われてるのは、ぼくなんでしょう。ぼくがいなくなれば、話は済むよね」

 フレイは何か言いかけて、しかし悟ったように口を閉ざした。肌に突き刺さるような刺々しい気配が、僅かに和らぐ。

 意を決して、ルークは男たちに向かって言った。

「出て行きます。その代わり、あの『船』をぼくにください」

「なんだって?」

「フレイは、魔物を呼んでるのはあの『船』じゃないかと考えてる。でも、あなたたちは、ぼくのせいだと思ってる。怪しい原因がふたつともなくなって、魔物が現れなくなったら、それでいいでしょう?」

 だから、もう放っておいて。出ていくから、もう構わないで。

 自分にも、フレイにも、これ以上関わらないで。でないと。

「……勝手にしろ。『船』でもなんでもくれてやるから、とっとと出ていけ」

 いつものように、男たちは逃げるように去っていった。

 その後ろ姿が見えなくなるまで、ルークはフレイの腕にしがみついていた。

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