【連載】(タイトル未定)#17
※こちらは、超絶遅筆な管理人が、せめてイベントに参加する毎には更新しようという、
雨垂れ石を穿つ精神で投稿する長編(になる予定)の連載ページです。
状況により、過去投稿分も随時加筆修正予定。
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炎の爆ぜる微かな音に、意識が引き戻される。
小屋の屋根は完全に焼け落ち、まだ所々小さな火が燻っていた。フレイの瞳が僅かに細められる。小屋に向き直り、右腕を一閃させる。火の気を元から消し去ると、立ち上っていた黒煙も徐々に薄れ、風に消えていった。
「……小屋を焼かれるとはな。連中を甘く見てた」
ルークが魔物を呼んでいる、などと。その瞬間を見たわけでもないのに、彼への疑いは最初から容赦がなかった。素性が知れないというだけなのに、余程ルークのことが気に食わなかったのか。フレイが保護することで避けられる衝突だと思っていたのだが、むしろ逆だったのかもしれない。フレイにまで楯突くほど、腹に据えかねていたとは思わなかった。
それほどまでに、常人の魔物への忌避感は強い。おそらく『加護持ち』という存在も、脅威の対象だという意味では、彼らにとって大差ない。
「フレイ」
「あぁ、気にするな。おまえのせいじゃねぇよ」
左腕を掴むルークの力が増した気がして、フレイは殊更に柔らかい口調で答えた。
こんなことは、今に始まったことでもない。
理解されない。互いに相容れない。加護持ちであるフレイの、それは諦観だった。
「ねぇ、フレイ。お願いがあるんだけど」
「ん?」
見上げてくるルークの表情は、いつになく真剣だ。
「一緒に、来てくれない?」
「……は?」
珍しく自分の希望をはっきり口にしたな、とフレイは思ったのだが、その内容の意外さに、不覚にも間の抜けた声しか出なかった。
「え、だって、ぼくじゃあの『船』、動かせないし」
「おい待て。やけに自信満々で船よこせとか言いやがるから、何か考えてるんだろうとは思ったけどよ」
「フレイだって、もうここにいるつもり、ないでしょ」
「……そりゃぁ、な」
僅かに変わった声の調子に、彼もまた、理解し合うのを諦めたのだと悟った。
『船』もルークもいなくなって。その後に魔物が現れても、それはもう、彼らとは何の関係もない。人の連れを、理不尽な言いがかりで追い出したのだ。守ってやる義理などない。
「ま、潮時か」
ここには随分長いこと住みついていたが、目的は果たせそうになかった。何より、これ以上ここにいても、町の連中との摩擦は絶えないだろう。
「しょうがねぇ。付き合ってやるよ。どこへでも、好きなところに連れてってやる」
ただし、とフレイは語気を強めた。
「言っとくがな、俺は海は苦手なんだ。陸に上がった『船』ならともかく、海の上でもまともに動かせると思うなよ。操縦が荒くても、俺の機嫌が悪くても、おまえに文句言う資格はねぇからな」
「言わないよ、そんなの」
彼に、言いたいことがあるとすれば。
「……ありがとう」
拾ってくれて。守ってくれて。側に置いてくれて。
これからも、ついて行くことを許してくれて。
頭を、くしゃりと撫で回される。容認、許可、肯定――そんなことを示す、彼の仕草。
その手がこんなにも温かいことを、知っているのはぼくだけだ――
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第一章 完
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