【連載】(タイトル未定)#2-3

※こちらは、超絶遅筆な管理人が、せめてイベントに参加する毎には更新しようという、

雨垂れ石を穿つ精神で投稿する長編(になる予定の)連載ページです。

状況により、過去投稿分も随時加筆修正予定。

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「とりあえず、メシでも食いに行こうぜ」

 そう言って歩き出したフレイの前方から、大きな声がした。

「そこの二人組、待て!」

 ルークは、自分たちのことかと足を止めかけたが、フレイはお構いなしだ。聞こえなかった振りでもするつもりなのか、さっさと角を曲がろうとする。すると、先程よりも鋭い声が飛んできた。

「そこのおまえたちだ! 槍を持った男と黒髪の少年! 聞こえているだろう!」

 甲高い声が通りに響く。周囲が何事かと足を止め始めたので、図らずも行く手を遮られてしまった。

 小さく舌打ちして振り返ったフレイとルークの元に、小柄な人物が駆け寄ってくる。

「おまえたちだな? 見慣れぬ『船』で西の浜に着いたというのは」

「あぁ、魔物なんかと間違えられたらしいが、なんだ? 討伐にでも来たのか」

 身長差のせいか、向けられた視線の鋭さのせいか、ルークと同じくらいの年に見えるその人物は、一瞬怯んだように押し黙り、僅かに声を落として答えた。

「その節は大変失礼した。目撃者から確認してくれと言われたのは確かだが、自我のない魔物と違うのは明らかだ。『船』も見てきたが、害のあるものではないのだろう?」

「見てきた? 今、俺たちに声をかけるより先にか?」

 それは時間的に無理がある、というより不可能な筈だとルークも思った。二人は浜から町へまっすぐに来たのだ。道が他にあるとしても、前方から駆けてきた人間が、先に浜にある『船』を見て来れるわけがない。

「あぁ、いや、直接見たわけではなく、風を飛ばして様子を窺ってきたのだ」

 不審に思ったのが顔に出たのだろう。慌てたように言い添え、軽く右手を振る。すると辺りに小さな風の渦が起こり、その人物の少し長い、緑がかった茶髪を揺らした。

「すまない、いろいろと説明が……申し遅れたが、私はラファ。風の加護持ちだ」

「あ、ぼくはルーク。こっちはフレイです」

 名乗った方がいい気がして、ルークが口を挟む。が、フレイは不機嫌そうに黙ったままだ。ラファはルークに軽く頭を下げ、フレイに向き直る。

「フレイ殿。貴殿も加護持ち、それもかなりの力をお持ちだとお見受けする。少し、話をさせてもらえないだろうか」

「なぜ俺が」

「不躾なのは百も承知だ。しかし、他に相談できる者がいなくてな」

「余所者にしか出来ない相談なんぞ、大方ロクでもねぇ話だろう。聞いてやる義理はねぇな」

「ちょっと、フレイ」

 歩き出しかけたフレイの腕を、ルークは咄嗟に掴んだ。ラファの硬い物言いと表情に、必死さのようなものを感じた気がした。

「話くらい、聞いてあげようよ。困ってるみたいだし」

「聞いたら関わることになる。こっちが困る結果になったらどうする」

「あ、あの、もちろん礼はする。助けてほしいのだ。私個人のことではなく、この町の安全に関わることなので、どうか」

 言い募るラファに対して、フレイの表情は険しいまま。何が気に入らないのだろうかと、ルークはフレイとラファを交互に見遣っていたが、やがてフレイが折れた。大きな溜息をつき、ようやくラファを正面に見据える。

「とりあえず、メシ。あと、寝床くらいは用意してくれるんだろうな」

「もちろんだ、礼を言う。ありがとう」

 ここではなんだから、と歩き出したラファの後をフレイが、さらにその後ろからルークがついていく。

 だから、ルークは気付かなかった。

 フレイが、前を歩く小柄な背を、いつになく鋭い目で睨んでいたことに。

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