【連載】(タイトル未定)#4

※こちらは、超絶遅筆な管理人が、せめてイベントに参加する毎には更新しようという、

若干他力本願な長編(になる予定の)連載ページです。

状況により、過去投稿分も随時加筆修正予定。

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 灰になった何かの成れの果てを見下ろすフレイの元に、ルークが駆け寄ってくる。

「何だったんですか、今の」

「魔物、と呼ばれる、魔力によって変質した存在だな。おそらく元は、海の生物か何かだった筈だが」

「ま、もの? まりょく?」

 あぁ、やはり通じないのか。今、話しておくべきだろうか。

 しばし逡巡し、フレイはその場に腰を下ろした。それに倣い、ルークもすぐ側に座り込む。

「この世界には、大きくふたつの力が働いている。『神の加護』と呼ばれるものと、『古代文明の遺産』のふたつだ」

 かつて、この世界を創った『神』は、戯れにその力の欠片を世界にばらまいた。現代では『魔力』と呼ばれるそれはヒトに限らず、地上・地下・水中・空に存在する、あらゆるものに宿り、超常的な力を与えた。『神からの加護』を授かりしもの。それはいつしか、『加護持ち』という名で呼ばれるようになっていった。

 だが、その力は、恩恵だけを授けたわけではなかった。身に余るほどの強大な力を扱いきれず、幾度も争いや災いが起こり、夥しい血が流れた。それはやがて地上を枯らし、海を荒らし、空を塞いだ。その力に我が身を焼かれ、生命は存在を維持できなくなった。そうしてこの世界は一度荒廃し、死に瀕した。

 その事実を憂えた『神』は、自らの行為を嘆き、その力を抑えるべく、姿を隠した。そうして時は流れ、『神の加護』はいくらか残りはしたものの、その力はかつてとは比べものにならぬほど衰退した。徐々に自然は回復し、生命は再び繁殖し、永い時をかけて緩やかに再生されたのが、今の世界である。

「『加護持ち』が宿す力を、今は『魔力』と呼ぶ方が多い。稀に自然界の、自我を持たないような生命に宿ってしまい、さっきみたいな異形のものに変質することがあってな。そういうのはだいたい『魔物』と呼ばれ、討伐の対象になる」

 こんな話、一体誰から聞いたのか、自分でも覚えていない。ただ、この世界はそういうものだと、生まれながらに知っていたような気がするのは確かだ。

「フレイさんも、その、『加護持ち』なんですか」

 神妙な顔で訊ねてくるルークに、フレイは右手をかざして見せた。一瞬、陽炎のようなものが浮かび、熱風が生じて、二人の髪を揺らした。

「見てのとおり、俺は『炎の加護』持ちだ。町には、軽い治癒能力持ちくらいならいるようだが、さっきみたいな荒事に慣れた人間は、ほとんどいねぇんだよ」

「だから、フレイさんが?」

「まぁ、な。便利屋なんて言えば聞こえはいいが、要するに厄介事処理係さ」

 『炎の加護』は、特に高い攻撃性を持つ強い力だ。人並み外れたその力のせいで、ヒトの和の中に入って生活するのはフレイにとっては難しいことだった。その力をありがたがりながら、実質異端のものとして恐れられているのは明白だ。

 だから、町から離れた森の中で一人暮らしている。助けを求められれば手を貸してやるが、基本的には互いに不干渉だ。

 様子を見てきてほしいと頼まれたこの朽ちかけた船に、魔物が潜んでいたのを彼らが知っていたかどうかはわからない。万が一何かあっても、フレイなら、という思惑があったのは確かだろう。それを責めるつもりはないし、フレイに依頼してきた時点で「何かあるかもしれない」ということだ。そのつもりで警戒していたのは正解だった。

 不意にフレイが立ち上がり、船に歩み寄る。砂浜に乗り上げ、傾いている船縁をひょいと飛び超えて甲板に降り立つ。目で促すと、ルークもよじ登るように甲板に上がってきた。

「大きい、ですね」

「あぁ」

 船首から船尾まで、おそらくフレイの小屋と同じくらいある。近海で漁をするような小舟ではなく、長い距離を航海するためのもののように思えた。

「もしかして、ぼくが乗ってた、とか?」

「どう、だろうな。嵐で難破した感じには見えねぇが」

 どちらかと言えば、長い時間海を彷徨い、波と風に晒されて、時の経過と共に徐々に朽ちていったような印象だ。いつから漂流し、いつここに流れ着いたのかはわからないが、最近のものでないのは間違いないだろう。

 ふと思い至って、フレイは甲板を歩き始めた。船尾の方に、操縦室とおぼしき区画がある。中を覗き込んで、フレイは感嘆の声を上げた。

「珍しいな。動力付きか」

「え?」

「さっき言ったろ。こいつはおそらく『古代文明の遺産』だ。見てみろ」

 ルークはフレイの元に駆け寄り、フレイが指さす先を見た。様々な大きさと形の金属の塊がずらりと並んでいる。それらはガラスの板をはめたようなのや、筒状の管が伸びているもの、何かを操作するような取っ手がついたものなど様々だ。ルークにはその用途は見当もつかないが、フレイの口元には笑みが浮かんでいる。

 所狭しと並んだ金属の塊の中央に、鉱石を磨いたように輝く板状のものが置かれている。フレイがその上に手をかざすと、足下が揺れた。船体が微かに振動したようだった。

「今のは……」

「やはりな。『魔力』に反応する『機械』だ。今はこれをいちから造る技術は失われているが、かつては生活の基盤にあったものらしい。時折こうして、どこからか流れ着いてくるものがあるんだ」

 稀に町に持ち込まれ、『加護持ち』のフレイが検分を依頼されることがある。その多くは生活をほんの僅か、便利にするような物品がほとんどだった。これほど大がかりなものは、フレイも見るのは初めてだ。


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