【連載】(タイトル未定)#9

※こちらは、超絶遅筆な管理人が、せめてイベントに参加する毎には更新しようという、

若干他力本願な長編(になる予定の)連載ページです。

状況により、過去投稿分も随時加筆修正予定。

==========================

 目が覚めてからしばらく、ルークはぼんやりと天井を見上げていた。

 夢を、見ていたような気がする。思い出そうとすればするほど、記憶の網から零れ落ちていく。そんな、曖昧な夢を。

 不意に肌寒さを感じて、ルークは身震いした。体を起こすと、ぱらぱらと音を立てて、砂が落ちていく。よくよく見れば、全身砂まみれのまま、ベッドに転がっていたらしい。

 砂。――砂浜。

「……フレイ?」

 呼びかけた声は、自分でも驚くほど小さく、冷えた部屋に溶けた。いつもならすぐに返ってくる声が、今は聞こえてこない。

 ぐるりと部屋の中を見回すと、向かいの壁際のベッドに横たわる長身が見えた。ほっと息をつく。が、

 ――おいて、行かないで

「……っ、フレイ!」

 焦燥に駆られ、弾かれたようにルークはベッドからとび降りた。床に点々と落ちている赤黒い染みに、砂浜で遭遇した魔物のことを思い出して胸が冷える。覗き込んだフレイの顔は、心なしか青白い。

「フレイ、ねぇ、フレイ……っ」

 喉が詰まったような、掠れた声しか出ない。これでは聞こえないかもしれない。それでもルークはフレイを呼び続けた。やがて、うっすらと瞼が開き、橙色の瞳が僅かに動く。

「……ルーク、やっと起きたのか」

 張りのない声に、背筋が震える。おそるおそる握った手は、少し冷たい気がした。

「悪い、けど……火、熾してくれるか。こう寒いと、力、入らねぇ」

「う、うん」

 部屋が寒いのは、暖炉の火が落ちているせいだと思い至る。

 ――違う。決して、彼が弱っているせいではない。

 教わったとおりにしようとするが、指先がかじかんだように痺れて、なかなか上手くいかなかった。ようやく熾きた炎の色と薪の爆ぜる音に、安堵の息が漏れた。

「フレイ、他に何かある? 怪我みてくれる人、呼んできた方がいい?」

「あぁ……別にいい。大したことないから、心配するな」

「でも」

 そんな顔色で言われても、安心できるわけがない。

 側に膝をついて、今にも泣きそうなルークの頭を、フレイは軽く撫でた。

「あいつの気に当てられて、力を上手く使えなくてな。少し、疲れただけだ」

 だから安心しろ、と言ったつもりなのだが、ルークの表情は沈んだまま。やがて、震えるような小さな声がした。

「……ごめんなさい。ぼく、何もできなくて」

「何言ってる。おまえのおかげで助かったんだろ」

「え?」

 困惑の滲む表情に、謙遜ではないと悟る。これは、ひょっとしなくても。

「覚えて、ないのか」

 あの時、浜辺で何が起こったのか。彼が、何をしたのか。

「……いや、そうだな。おまえは、何もしてない」

 そうだ。彼は、何もしていない。特別なことは、何も。

 彼に、そして自分に言い聞かせるように、フレイは呟いた。ルークも、それ以上は何も言わなかった。

 沈黙の落ちた部屋に、薪の爆ぜる音が一際大きく響く。

 今はただ、側にいたかった。

銀河書店's HP

店主リョウの徒然発信サイト

0コメント

  • 1000 / 1000