【連載】(タイトル未定)#12
※こちらは、超絶遅筆な管理人が、せめてイベントに参加する毎には更新しようという、
雨垂れ石を穿つ精神で投稿する長編(になる予定の)連載ページです。
状況により、過去投稿分も随時加筆修正予定。
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フレイの言葉に、ルークは納得がいかないようだった。いつもなら素直に頷いてくれるのに、物言いたげにフレイを――その手にある槍を見つめたまま、動こうとしない。
彼に告げたのが正論ではなく、自分の感情論だという自覚はあった。それ以上は何も言えず、フレイの方から目を逸らす。遠ざけるように腕を一振りすると、ルークも黙ったまま背を向ける。離れていく背中を見送って、再び槍を構え直す。
彼は、昔の自分に似ている。同じ苦労をさせたくない。
けれどそれは、フレイの勝手な自己満足だ。彼がそれを望んでいるとは限らない。拾った以上は、というのは言い訳で――彼の面倒を見ることで、過去の自分を救おうとしているような気がした。
自分が何者なのか、わからない。そんな不安に押し潰されまいと、必死で足掻く。その手に何かを掴んでいないと、どこまでも沈んでいってしまいそうだ。
それを、彼も感じている筈だ。わかっているからこそ、同じ道を歩ませたくはなかった。
不意に、ずきりとした痛みを右腕に感じて、フレイは動きを止めた。考え事をしながら、がむしゃらに槍を振り回していたらしい。気付かないうちに息は上がり、包帯には血が滲んでいた。
落ち着け、と自分に言い聞かせるように、長く息を吐く。今のこの状況で、不必要に自分を追い込むような姿は、ルークにいらぬ心配をかけるかもしれない。
戻って、少し話でもすれば、わかってくれるだろう。決して彼を蔑ろにしているわけではない、と。
だが、小屋の中は空だった。
「ルーク?」
返事がない。嫌な予感がした。
弾かれるように飛び出し、周囲を見渡す。浜の方へは向かっていない筈だ。ならば、森の方か。
駆け出しかけて、視線の先から人影が向かってくるのが見えた。森の奥から、とぼとぼと歩いてくるルークは、頭から水を被ったように全身濡れ鼠だった。
「ルーク! おまえ、一体どうした」
「あっ、あの……川で。さっ、魚、取ろうとして、足が滑っちゃって」
「……ルーク」
しどろもどろになるルークに、フレイの静かな声音が突き刺さる。
「俺に、そんな嘘が通じると思ってるか?」
ルークは俯いて首を振る。これではルークを責めているようだ。フレイは努めて穏やかな口調で話す。
「おまえが、誰かを庇う必要なんかねぇよ。何があったか、正直に話せ」
「……何か、されたわけじゃないよ。ぼくが、勝手に足滑らせたんだ」
「勝手に、か」
「石……は、飛んできたけど。でも」
歩き出しかけたフレイの腕に、咄嗟に縋り付く。行かせてはだめだ。
「当てようとしたんじゃない。ちょっと、脅かすつもりだっただけだよ、きっと。だから、お願い。何もしないで。ぼくは気にしないから」
「おまえは、それでいいのか」
何と答えさせるつもりで、そんなことを訊くのだろう。
怖かった。あの時一瞬、確かに感じた悪意と殺意。体が震えているのは、川に落ちたせいではない。けれど。
「何も、しないで。お願い」
行かないで。ここにいて。他に、我が侭は言わないから。
ルークに掴まれている右腕が、きんと痛む。その痛みが、辛うじて冷静さを留めさせた。
空いた左手で、ルークの頭を軽く撫でる。
「わかったよ。おまえが、それでいいってんなら。けど、これからは一人になるな。いいな」
こくりと頷いた、今にも泣き出しそうな少年の姿に、遠い昔の幻を見た気がした。
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