【試し読み】身近で、遠い
こちらは、リョウ・ホズミロザスケ・てれこによる合同誌『キャンバスに筆跡を』に掲載のエッセイ試し読み(全文)です。
文学フリマ京都他、銀河書店が参加するイベントにて頒布・通販予定です。
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〈あまいろとは何色か〉
今でも覚えている。
高校生の時の話だ。当時、別に親しかった訳でもないクラスメート(顔も名前も覚えてない)に「亜麻色ってどんな色?」と訊かれたことがある。
好きだった小説の、ある登場人物の髪の色がそう表現されていたので、自分の中ではこういう色だ、というイメージはすぐに浮かんだ。が、あれは言葉では少し説明しにくい色味なのである。
即答できずにいたら、「茶色じゃないんだよね?」と再度問われたので、茶色ではない、と答えた。
色見本や色の名前事典系の資料では、だいたい茶色系に分類されているが、日本人が「茶色」と聞いて、最初にイメージする色とはだいぶ違う。西洋人の薄い黄褐色の髪色の形容に使われ、日本には元々なかった色名だとか。
見る人によっては、ベージュっぽいとか、灰色に近いと感じる場合もあるだろう。実際、資料によってもだいぶ色味は違って見える。
ちなみに、ここでいうところの資料とは、二十年以上前の印刷物であり、色の表し方はCMYB(またはCMYK)である。
さて、「あまいろ」といえば、真っ先に浮かぶのは、有名な曲名にもあるこの「亜麻色」だが、この他に「天色」と書く色がある。
字面のごとく、天空・空の色で、一般的に「空色」と聞いて思い浮かべる薄く明るい青よりも、濃い鮮やかな青色をさす。
古くは平安時代、「天色・空色」と書いてそらいろ・あまいろなどと読んでいたそうだ。「天」と書いて「あま」と読むのは古語に多く、言われてみれば、現代では天の川くらいしかすぐには思い浮かばない。
当然、キーボードで「あまいろ」と打って変換しても、「亜麻色」は出てくるが「天色」は出てこない。
仕方がないので「てん-いろ」と打って変換している。「天」の字は自著代表作のタイトルに入っているので、変換は最優先だ。
ところでこの「天色」、最新のウェブ資料には日本の伝統色として載っているが、手持ちの古い色名事典などには載っていない。
より正確にいうならば、2000年~2010年代前半頃の、色見本数値にCMYBが使用されている出版物には載っていないが、2010年代後半以降、#から始まる十六進法表記(いわゆるカラーコード)がある資料には記載がある。
伝統色というのは、古くからその存在が確認されている色名のことだそうなので、平安時代から存在していた「あまいろ」は、間違いなく日本の伝統色だ。
ではなぜ、年代によって色見本としての掲載・不掲載があったのだろう?
残念ながら、手持ちの資料、及び近所の図書館では疑問は解消しなかった。単純に掲載する色の取捨選択に漏れたのだと言うこともできるだろうが、発刊された年代によって違いがあるということに、何か意味があるような気もする。
この違いへの探究は、またいずれ。
〈身近で、遠い〉
「青いものといえば?」との問いに対して、答えは空・海・宝石あたりが多くを占めるだろう。
自然界において青いものは少数派だ。「青果」と書く割に青い(真っ青な)野菜は見当たらないし、一昔前まで、青いバラは不可能の代名詞だった。
面積や体積で言えば、地球上で圧倒的な割合を占めるのに、数で言えば僅少。このアンバランスさも、青いものの神秘というか、魅力につながるのだろうか。
そして意外なことに、青系統の色の由来は海の色や植物(染めの原料)・宝石を含む鉱物が多く、特に日本語には、空模様や気象を元にした青系統の色名はほとんどないという(欧米には空の色を指す語が数種類ある)。
希少だから、なのだろうか。好きな色は昔から青系統である。
緑や紫だった時代もあるが、これらも広い意味では青系統なので(やや強引失礼)、好みはそうそう変わらないということだろう。空の薄い蒼も海の深い碧も、ついでに宇宙の濃い紺青も好きだし、九月生まれなので誕生石の青にも親しみがある。
雑貨や何かのおまけなどは、カラーバリエーションが提示されれば、迷わず青系統を選ぶ。なければモノトーン。赤系統は滅多に選ばない。
何が言いたいか、おわかりだろうか。
性別による色遣いの偏見というか、固定概念というか。そういうものとは長年、日常的に闘い続けてきているのである。
子どもの頃は、今よりもずっと「男の子は黒や青、女の子は赤やピンク」の押しつけが強かったように思う。ランドセルの赤が嫌いだった。ピンクの服なんて、たぶん一回も着たことがない。
今でこそ、子ども向けの文具や玩具、キャラクターに至るまで、使用者の性別を問わず、中間色や青系統のものも珍しくなくなったな、という思いではある。
が、たとえば通販カタログなどで「女性にも使いやすい○○!」みたいな商品は、未だに赤やピンク一択だったりする。
確かに使いやすそうではあるのに、どうしても色が気に入らない。それで購入を見送るのは、企業側としても勿体ないと思うのだが、どうにかならないものか。せめて白、できれば水色があれば嬉しいのにな、といつも思う。
ところで、この好きな色問題、あくまで「雑貨」に限った話である。
これが「キャラ」の話になると、なんとびっくり、好みは一八〇度反転する。
あ、いや反転は言い過ぎか。青系統やモノトーンも変わらず好きだが、暖色系にもまったく反感を持たなくなるのである。
推し活にはあまり積極的ではない(というかほとんどしていない)ので、推し色とかいうものも、普段まったく意識しない。
が、よくよく思い返してみれば、イメージカラーというか、メインで使われる配色に、オレンジや黄系統が余裕で入ってくる。
これは、嗜んできたゲームの影響が大きいだろう。おそらく、すべての基盤となっているのは初代ポ○モンである。ほのおタイプやでんきタイプがめちゃくちゃ好きだった。当時、ゲームそのものはモノクロだったはずだが、イラストやグッズなどはそこら中に溢れていたので、色の印象というのは存外強く残っている。
その後も、その系統の属性を持つキャラを好きになる傾向があったので、まぁ自然とそういう色合いに落ち着くわけだ。炎や雷を操る兄貴分、今でも超スキ。水や氷、風属性の魅力に目覚めるのは、もう少し後である。
余談だが、一番好きな色はペンネームのそれである。
「ん?」と思った方、ぜひ漢和辞典を調べてください。
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