【連載】(タイトル未定)#13

※こちらは、超絶遅筆な管理人が、せめてイベントに参加する毎には更新しようという、

雨垂れ石を穿つ精神で投稿する長編(になる予定の)連載ページです。

状況により、過去投稿分も随時加筆修正予定。

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 燃えさかる、炎。

 火の海に沈む町に響く、断末魔の声。

 焦土と化した、森の成れの果て。

 熱風に髪を踊らせる長身の影は、無感動な瞳でそれらを眺めている。

『どうして――?』

 何もしないと、言ったのに。

『――ク』

 おまえが、望んだから――


「おい、ルーク! 起きろ!」

 耳元で怒鳴られ、肩を揺すぶられて、ルークははっと目を覚ました。

 心臓がどくどくと、いやな音を立てている。呼吸は浅く速く、握り締めた手の平にはじっとりと汗をかいていた。

「大丈夫か。だいぶうなされてたぞ」

 心配そうに覗き込んでくる瞳に炎の色が見えて、息を呑む。こんな、温かい目をしているのに、どうして。

 身を固くしているルークに、フレイは一旦部屋を出ていった。しばらくして、いつものあの甘い香りが漂ってくる。起き上がって、それでも動く気になれずぼんやりしていると、フレイがカップを片手に戻ってきた。差し出されるまま受け取り、口をつける。最初に飲ませてもらってから、ルークが密かに気に入っていることを、フレイもわかっているだろう。

「……いやな夢でも見たのか」

 少し落ち着いたと見えたのか、フレイが声をかけてくる。なんと答えていいかわからず、ルークは黙っていた。

 怖い、夢だった。ただの夢なのに。これは夢だと、わかっていたのに。

 聞こえる音も、声も、感じる温度も。なにもかも現実のように思えて、怖くて、泣きたくなった。

 ルークの沈黙を、フレイがどう捉えたのかわからない。が、何か言わないと余計な心配をかけそうで、ルークは顔を上げた。口を開きかけるが、それより先に、頭を軽く撫でられた。そのまま、フレイはベッドの端に腰掛ける。

「不安や心配事なら、溜め込まずに話せよ。ま、見当はつくが」

 見抜かれているのは、少し気恥ずかしい。だが、フレイに聞いてくれる気があるうちに、話しておきたかった。

 手にしたカップを握り締め、ルークはぽつぽつと話し出す。

「ぼくは、自分が何者なのか、わからない。あの人たちが言うように、魔物を操るような力が本当にあるんなら、ここにいていいのかなって思うし……」

「俺は、おまえにそんな力はねぇと思うけどな。加護持ち特有の気配みたいなもんは、何も感じねぇし」

「フレイは、他の人が加護持ちかどうか、わかるの?」

「あぁ、まぁ大体はな」

 明らかに異質な空気を纏っている者は、誰の目にも明らかだ。フレイも大抵、加護持ちだと一目で見抜かれる。フレイの場合は隠す気がないせいもあるが、巧妙に隠しているつもりの者でさえ、同じ加護持ちの目には特異に映る。

 そんなフレイからしても、ルークは至って普通の少年にしか見えない。本人や町の連中の心配は杞憂に過ぎない。

 が、それはフレイが加護持ちだから言えるのであって、当人たちが心底納得するのは難しいだろう。ルークの素性が不明であることも、彼への当たりをきつくしている要因だ。 

「どうして、ぼくが魔物を呼んでるなんて言われるんだろう」

「言ったろ。人ってのは、恐ろしいものは、得体の知れないもののせいにしたがる生き物だ。よくないことが起こった時に、たまたまおまえがいた。おまえのせいにすることで安心するんだよ、ああいう連中は」

「……そんなの、しらないよ。あの人たちの気持ちなんて」

「わかってる。おまえにとっちゃ、理不尽な話だろう」

 都合よく原因にされたのだ。本人の意志とは関係なく。

 不意に、フレイの表情が沈んだ。

「俺も、そうだった。昔はな」

 望んで手に入れたわけではない、大きな力。疎まれ、恐れられ、何か事件があれば真っ先に疑われる。それなのに、都合のいい時には利用しようとする。そんなヒトと、関わるのが大嫌いだった。

 生まれを恨んだ。周囲を、世の中を憎んだ時期もあった。それでも、自分が加護持ちである事実は覆らない。力を誇示するのではなく、必要ならば貸してやる。そうやって生きていくことに、ようやく気持ちの折り合いをつけられるようになった。そうしてやっと、ヒトとまともに関われるようになったのだ。

「そう吹っ切れるようになるには、おまえはまだガキだからな。気にするな、としか言えねぇし、それ以上どうしようもねぇよ」

 下手な気休めより正直な言葉に、気持ちは完全に晴れることはなかったけれど。

 納得するのを放棄することを、許された気がした。

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